客は増え、1回の買い物で買う点数は減る ─ ヤオコーの既存店の6年から、「値頃」と産地フェアを並べる理由を読む
公開 2026年10月18日
ヤオコーの既存店では、1品あたりの平均の値段が5年続けて上がり、1回の買い物で買う点数は5年続けて減っています。5年を掛け合わせた目安で、一品単価は約18%上昇、点数は約6%減。その売り場で会社が、値頃の施策と並べて「産地フェア」などの集客の企画を打つ意味を、数字と方針から読み解きます。
資料の対象時期: 2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)。既存店の推移は2021年3月期から。ヤオコー単体
回1(第1回「ヤオコーは何で稼いでいる?」)では、ヤオコーの売上と粗利の全体像を見ました。この回は、既存店(以前から営業している店。比べる対象の店の基準は資料に書かれていません)の数字を6年分並べて、お客さまの買い方がどう変わってきたのかを読みます。そのうえで、その売り場で会社が何をしているのか、産地の特産品がどんな役割を担っているのかを考えます。
数字はすべて事業会社ヤオコー単体の既存店で、前の年と比べた増減です。
1.2026年3月期:客は増え、1回の買い物で買う点数は減った
公表されていること
ヤオコーの既存店の2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)を前の年と比べると、次のとおりです。
- 売上高:4.2%増
- 客数:1.3%増
- 客単価(客数1あたりの買い物金額):2.9%増
- 一品単価(1品あたりの値段):3.9%増
- 買上点数:1.0%減(客数100あたりの買い物の点数として指標化したもの)
「客数」がどう数えられているか(来店した人の数か、会計の回数か)は、資料に書かれていません。会計の回数で数える場合、同じ人が2回来れば2と数えられます。この記事では「1回の買い物あたり」と書きます。
この5つの数字はつながっています。売上は「客数×客単価」で、客単価は「一品単価×買上点数」です。実際に掛け合わせると、客数1.3%増と客単価2.9%増で売上は約4.2%増(1.013×1.029≒1.042)、一品単価3.9%増と点数1.0%減で客単価は約2.9%増(1.039×0.990≒1.029)になり、資料の数字と合います(NouManの計算)。
つまり、既存店の売上が伸びたのは、客数が少し増え、1品あたりの平均の値段が上がったからです。1回の買い物で買う品の数は減っています。
2.6年分を並べると、同じ傾向が続いている
| 3月期 | 売上高 | 客数 | 一品単価 | 買上点数 |
|---|---|---|---|---|
| 2021年 | 9.1%増 | 8.9%減 | 3.2%増 | 15.0%増 |
| 2022年 | 0.7%増 | 1.2%増 | 0.4%増 | 1.0%減 |
| 2023年 | 1.7%増 | 0.3%減 | 3.8%増 | 1.9%減 |
| 2024年 | 7.7%増 | 3.8%増 | 5.4%増 | 1.7%減 |
| 2025年 | 6.0%増 | 3.1%増 | 3.5%増 | 0.7%減 |
| 2026年 | 4.2%増 | 1.3%増 | 3.9%増 | 1.0%減 |
2021年3月期(2020年4月〜2021年3月)は、客数が大きく減り、1回の買い物で買う点数が大きく増えた年で、ほかの年と動き方がまったく違います。新型コロナウイルスの感染が広がった時期にあたりますが、資料はその理由を説明していません。
その後の5年間(2022年3月期〜2026年3月期)を見ると、はっきりした傾向があります。
- 一品単価は、5年続けて前の年を上回っています
- 買上点数は、5年続けて前の年を下回っています
- 客数は、2023年3月期を除いて増え、直近は3年続けて増えています
5年分を掛け合わせると、一品単価は約18%上がり、買上点数は約6%減り、客数は約9%増えました。既存店の売上は約22%増えています(NouManの計算)。既存店は、毎年比べる店の範囲が変わります。この掛け合わせは、同じ店の5年間の変化ではなく、傾向をつかむための目安です。
一品単価は「1品あたりの平均の値段」です。値上げだけでなく、高い品がよく売れる、容量が変わる、といった商品の組み合わせの変化でも動きます。値上げと組み合わせの変化がそれぞれどれだけ効いたかは、資料には示されていません。
3.会社が打っている手:値頃と、来店のきっかけ
公表されていること
決算短信によると、ヤオコーは「ミールソリューションの充実」と「価格コンシャスの強化」を基本方針にしています。価格コンシャスとは、お客さまが買いやすい値段、値頃(ねごろ)を常に意識して価格を決めることだと、決算短信の注記で説明されています。
2026年3月期の販売面の取り組みとして、決算短信は次のものを挙げています。
- 値頃:EDLP(いつも安く売る施策)、「厳選100品」、よく買われる生鮮品などの価格政策
- 集客強化:一つの品を大きく売る「日本一企画」、地方の特産品をそろえる「産地フェア」、「豊洲祭り」
- お客さまの違いへの対応:販促と品揃えを中心にした「南北政策」
有価証券報告書は、2026年3月期の既存店について「節約志向に対応した価格強化や企画を通じた販売力の強化などにより、一品単価の上昇に加え、客数の増加により、既存店売上高の昨年比は104.2%と好調に推移しました」と説明しています。また、同じ報告書に載っているヤオコーの中期経営計画は、重点施策に「生鮮部門の構造改革と集客力向上」と「顧客別対応の進化」を挙げています。また、会社のサイトは、旬の商品について産地・生産者などを吟味していると説明しています。
4.NouManの読み解き
NouManの読み解き
5年続けて、1回の買い物で買う点数が減り、1品あたりの平均の値段が上がっています。お客さまは、値段を見ながら、買う品を選んでいるように見えます。ただし、数字は買い物の結果で、お客さまの気持ちまでは分かりません。同じ人が来る回数を増やし、1回に買う量を減らした可能性もあります。また、平均の値段の上昇には、高い品がよく売れた分も含まれえます。
その売り場で、ヤオコーは二つの種類の手を並べて打っています。一つは、値頃を意識した価格の施策(EDLP、厳選100品、生鮮の価格政策)。もう一つは、「集客強化」の企画(日本一企画、産地フェア、豊洲祭り)です。このうち産地フェアは「地方の特産品を品揃えする」企画で、値段とは別の切り口でお客さまを呼ぼうとするものと読めます(日本一企画は「単品量販」の企画で、値段で訴えるものかどうかは資料からは分かりません)。
一般的には、1回に買う点数が減る売り場では、1品ごとに「選ばれるかどうか」がより問われるようになると考えられます。産地フェアは、どの産地の、どんな品かということを、お客さまが店に来る理由や品を選ぶ理由として、売り場の企画にしたものと読めます。
会社は、価格強化や企画で客数が増えたと説明しています。ただし、施策ごとの効果は示していません。産地フェアがどれだけ客数に効いたかは、資料からは言えません。言えるのは、会社が価格の施策と並べて、産地を切り口にした集客の企画も打っている、というところまでです。
5.生産者にとって
この分析から考えられるヒントを挙げます。どれも、ヤオコーが特定の作物や産地を求めているという意味ではありません。
- 値段以外で選ばれる理由を、買い手が伝えられる形にする。 1品ずつ選ばれる売り場では、買い手(店のバイヤーや売り場の担当者)は、その品をお客さまにどう説明して売るかを考えます。産地名だけでなく、どこで、どんな作り方をした、どう食べるとおいしい品なのか。売り場でそのまま使える一言を、自分の作物について言えるかどうか
- 値頃の売り場では、1品の値段の見え方も大切になる。 同じ作物でも、量や大きさによって1品の値段は変わります。お客さまが手に取りやすい値段になるかどうかは、買い手の売りやすさに関わると考えられます
- 自分たちの採算も合わせて考える。 企画に合わせた出荷では、時期や数量を合わせる手間、販促の資材、配送などの負担が増える場合もあります。売り場に並ぶ機会だけでなく、追加の作業や費用を含めて、自分たちの採算を考えることが大切です
この資料から分からないこと
- 一品単価が上がった理由(値上げ、商品の組み合わせ、容量の変化など)
- 「客数」の数え方(来店した人の数か、会計の回数か)
- 部門別・品目別の客数や点数(野菜だけを買う点数が減っているかどうかは分かりません)
- 施策ごとの効果(産地フェアや価格の施策が、客数や売上にどれだけ効いたか)
- 日本一企画が値段で訴える企画かどうか
- 産地フェアの回数・規模、扱った産地や品目、生鮮品だけが対象かどうか、仕入れの方法や条件(この記事は、ヤオコーの仕入れの募集や調達の条件を示すものではありません)
出典
- 第1期 決算参考資料(2026年3月期 決算概要)11.〔ヤオコー〕売上・客数等の営業数値の状況 公式IR「決算短信/決算参考資料」の一覧
- 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) 添付資料 P.3・P.4(株式会社ヤオコーの項、用語の注記) 公式IR「決算短信/決算参考資料」の一覧
- 有価証券報告書-第1期(2025/04/01-2026/03/31)経営成績等の分析(PDF p.22)、「ヤオコー第11次中期経営計画の骨子」(PDF p.9〜10) 公式IR「有価証券報告書/半期報告書」の一覧
- ヤオコーとは(時点の表示なし) 資料を開く